こんにちは。このページの管理者、田村(檜皮)貴子です。

日頃、感じたこと、そしてそこから考えることをここに綴ることができればと思います。

お時間のある時、お越し下さい。

知り合いの方に紹介された文章。そして、ふと思いました。

このことは、現在の大学における就職活動のみに言えるのではないということ。社会の流れが、「最速」や「効率」を求めすぎた結果であること。しかし、「最善」は人それぞれ違うと思う。2点を結ぶ数計り知れない線、その色々な線が個人を、そして社会全体を豊かにしてくれると思う。その豊かな線を描く、ほんのささいなお手伝いが「体操」を通してできればとふと思った。

みなさんはどのように思われますか?

朝日新聞 「天声人語」4月16日付

言われて気づけば、目に映る自然の造形に直線はない。山も川も、木の葉も雲も、ことごとく曲線である。造物の神は定規を持たなかったようだ。方や人間の造ったものは、ビルにせよ橋にせよ、直線に満ちている。

直線を発見し、そこに最大の効率を見いだしたのは人類の英知だったかもしれない。2点を結ぶ最短距離である。さりとて人の生き方にまで直線を求めすぎれば、社会は潤いも活力も失いかねない。大学生の就職をめぐる動きに、そうした思いがよぎる。

1年生のうちから「就業力」をつける教育を、文科省が支援するそうだ。就職活動はいま、早々と3年の夏ごろに始まる。それでも遅いのだという。入学前から「就活」で個別面談をしたり、父母への説明会を開いたりする大学もあるというから驚く。

入学から就職までを最短距離で駆け抜ける。その成功者を「勝ち組」などと呼ぶ。道草の許されない大学生活を、老婆心ながら案じてしまう。むろん学生のせいではない。すべてに保水力の衰えた時代が、ゆたかな曲線を封じてしまうのである。

フランスの哲学者ジャン・ギットンに、次の言葉があるそうだ。「学校とは一点から一点への最長距離を教えるところであると、私は言いたい」。小欄の先輩筆者だった白井健策が著書に引用していた。

直線の定規だけで人生は描けないし、2点を結ぶ線はそれこそ数限りない。希望はどこにあり、どの線でつながっているのか。悩みつつ見いだす時間は、大学生の特権でもあったはずだ。保水力を取り戻せないものか。

 

(朝日新聞 2010年4月16日 「天声人語」より)